第232話 ゲイリー・ムーア/アフター・ザ・ウォー を語る

ゲイリー・ムーア/アフター・ザ・ウォー 1989年 発表。

「ワイルド・フロンティア」で自己のアイリッシュ・アイデンティティーを確立したゲイリーは、更に一歩進めたハードロック・アルバムを作成した!もう、ぐうの音も出ない完成度にひれ伏すしかない!

前作「ワイルド・フロンティア」は本当に凄い作品でした。「ラン・フォー・カヴァー」でコンテンポラリーかつワンランク上のサウンドを提示したかと思えば、そこに留まらず自己のアイリッシュ・アイデンティティーを武器に他の誰にも作れない唯一無二のサウンドを築き上げました!

本作はそのアイデンティティーの上で、よりバラエティー豊かで力強いハードロック作品に仕上がっています。

そして「After The War」「Speak For Yourself」「Led Clone」「Blood Of Emerald」などメッセージ性が強い曲が多く、ゲイリーの心境、精神性が大きく表れている作品となっています。

前作はドラムが打ち込みだったのですが(それによるマイナス要素は殆どありません)、本作はコージー・パウエルやサイモン・フィリップスといった超一流ドラマーが参加しているのも嬉しい!

そしてオジー・オズボーン!

もはやこれだけで名盤間違いなしですね!

〈After The War〉

1)Dunluce(Part 1)

ダンルース城に波が打ち寄せる。その荒涼とした風景が浮かび上がると、ゲイリーの郷愁感溢れるギターは罪を洗い流す精霊のように流れる。

物語は始まる。

2)After The War

ヘリコプターを思わせるSEに導かれ、勇壮なブラス・シンセによって幕は開く!

ゲイリーは語り部として低く歌い始める。

「血塗られた歴史、憎しみの遺産。」

戦争はいつの時代も悲劇でしかない。民衆を洗脳し、分断し、互いに殺しあわせる。大量虐殺を正当化する。その裏で笑っているのは誰なのか?

After The War!

戦いの終わった後、私達が得るものは何もありはしない。哀しみだけである。なのに何故戦争は引き起こされるのか?すべては計画である。

ゲイリーの音楽は深いメッセージを込め、私達の心に問いかけ、揺さぶる。

そのメロディー、歌声、ギターの叫び、全てがリアリティーを持って迫って来る。

これはフィクションではない。いつの時代も、そして今も未来までも続く悪夢である。

このゲイリーの遺言たる名曲を聴いたなら、私達人類は賢明な意思を持って生き延びなければならない。

★YouTube/After The Warはこちら

3)Speak For Yourself

16ビートのスリリングなリズムとリフで徹底的に疾走感を持って突き進む!

この曲も社会問題に対するメッセージを放っているようです。

ダークな曲調ですが、メタリックでとてもカッコ良いです!過去に「Thunder Rising」「Murder In The Sky」や「Hiroshima」のような曲もありましたが、また違った味わいがあります。

サビのフレーズはなんかオジーの曲に通ずる雰囲気もあり(と思ったらオジーがバックコーラスで参加していた)、シリアスな響きが独特です!

そして ゲイリーの力強い歌声、ギターは曲の持ち味を最高に引き出していて完璧です!

忘れてはならない名曲ですね!

★YouTube/Speak For Yourselfはこちら

4)Livin’ On Dreams

ここらで肩の力を抜いて明るく快活な曲にいきましょう。別に手を抜いている訳ではありません。

とても良い曲です。

Running wild !

というリフレインが印象的です!

とは言ってもギター・ソロはやはりゲイリー!短いながらとても迫力のあるプレイです!

5)Led Clones

レッド・ツェッペリンのパクリが問題になったあのバンド達を批判した事で有名な曲。ツェッペリンの「カシミール」風のサウンドで痛烈にやってます!

モロに名前出してます。

当時キングダム・カムのメンバーが「We are sorry for GARY」と書いた紙を持ってFuck offサインを出していた写真が「BURRN!」誌に載ってましたね。

しかし批判する場合ならゲイリーはツェッペリンをパクっても良いのでしょうか?

そしてついにオジーの登場です!

Aメロをオジーが歌ってBメロはゲイリーとオジーが交互に歌い、重なります。注意して聴かないとどっちがどっちか分からない程似ています!

そしてコージー・パウエルの迫力のドラムが凄い!

しかしツェッペリン風サウンドにオジーのヴォーカルにコージーのドラムとか本当に異種格闘技のようですね!

聴き応え抜群の名曲と言えるでしょう!

★YouTube/Led Cloneはこちら

6)The Messiah Will Come Again

前作の「The Loner」に引き続き哀愁のギターのインスト・ナンバー!今回はロイ・ブキャナンのカバー。

「The Loner」はコンテンポラリーで荘厳な雰囲気の仕上がりで、決められたメロディーを切々とプレイするタイプの曲でしたが、今回はバックに哀愁のオルガンがたなびくシンプルなアレンジで、もう自由に弾き捲っていて凄いです!

次のブルーズに進む布石のように、ブルーズ魂が炸裂しています、というかブルーズ・アルバムにそのまま入っていた方がしっくりくる程です!

ナチュラルなトーンで引いたプレイもあり、ゲイリーの真骨頂が味わえますね。

そしてやはりコージーのドラムが曲を見事に演出していて素晴らしい!

★YouTube/The Messiah Will Come Againはこちら

7)Running From The Storm

嵐は吹き荒れ、遠くで鐘の音が不気味に響きわたる。

突如「Out In The Fields」のように曲が始まる!

歌詞は非常にメタル的でストレート!

Running from the Storm!

サビのフレーズは既に使い古されたようなありきたりのメロディーなのに、とても新鮮に聞こえるし凄くカッコいい!「やられた」と思いました!

たくさん作曲しているとどうしてもネタ切れになります。世の作曲者たちはこういうヒラメキを求めているのです。

ギター・ソロも印象的なメロディー、フレーズが次々に現れ、聴き手を引き付けます!

これといった小細工なしで、シンプルにただひたすらカッコいいハードロックの名曲に仕上がっています。何度も聴きたくなります。

★YouTube/Running From The Stormはこちら

8)This Thing Called Love

活きのよいシャッフルのリズムやリフがヴァン・ヘイレンの「Hot For Teacher」を思わせます。いや本当にバラエティー豊かなアルバムですね!

しかもこの曲、シングル「After The War」のカップリング曲ですよ!何度も聴いているとクセになる魅力があります。

ヴォーカルもギターも熱量が高いです!

9)Ready For Love

これはまた!60年代風?よく分かりませんがダンス・ナンバーというのですかね?本当にバラエティー豊かです!

最初は何じゃこれ!と思いましたが、やはり抗い難い魅力があります!そしてシングル・カットもされています。どのファン層を狙ったのですか?!

ギターもワイルドに弾き捲っています!

10)Blood Of Emeralds

ストリングス・シンセが和の如き哀愁のメロディーを奏でる。アイリッシュと日本の旋律には心のふるさとを呼び覚ます響きが重なる。

マーチング・スネアに導かれ、アイリッシュの魂が立ち登る!そして荘厳なメイン・テーマが強力な意志と共に伝統の血を流しながら炸裂する!何と凄まじい光景だろうか!

I was born up on~

アイルランドの広大な大地、草原そして青空に広がるようなおおらかなメロディー。幼い頃の記憶が甦るような気持ちにさせてくれる。

Dublin city ’69

そして冒頭に登場した和とアイリッシュの魂の旋律。郷愁と哀しみが同居する物語。人はこの大地から産まれ、この大地と共に死んでゆく。これからもずっと…

Blood of Emeralds!

メインテーマが荘厳にリフレインされる中、ゲイリーの歌声は自らの出自を高らかに宣言する!とても厳粛な空気に包まれ、心は揺さぶられる!

Some of us will win!

ゲイリーの独特のガナリが物語の転回を告げるとあの「望郷の果て」に登場したメロディーを思わせる旋律が出現し、急激に最高潮を向かえ、そしてメインテーマに繋がる!まさに息をもつかせぬ展開に身震いする!

I was angry, I was sad

ゲイリーは心を込めて歌う。かつての日々を…。そう、もちろんフィル・ライノットに語りかけているのだろう。美しく叙情的なメロディー、エモーショナルな歌声に胸を締め付けられるようだ。

そしてAメロの旋律がギターで奏でられる。このドラマ性はもうシン・リジィそのものと言えるだろう。涙腺を刺激する構成にゲイリーの魂、血の宿命を感じる。

再びゲイリーのガナリが物語の終演を呼び込むと、メインテーマが荘厳にリフレインされる!

Blood of Emeralds!

コーラスを伴い、激しさが増す中、ゲイリーの歌声とギターは最後の叫びを振り絞る!

そしてそれは遠い日々の出来事であったかのように、記憶の彼方へと消えて行く…。

★YouTube/Blood Of Emeraldsはこちら

11)Dunluce(Part 2)

ダンルース城に波が打ち寄せる。その荒涼とした風景が浮かび上がると、ゲイリーの郷愁感溢れるギターは罪を洗い流す精霊のように流れる。

それは更なる時を旅して、魂のふるさとへと帰って行くのだろう…。

ここでゲイリーのハードロックの旅はひとまず終焉する。アイリッシュのエメラルドの血はふるさとへ帰り、次の目的地へと向かう。

静寂なるブルーズをあなたに。

GARY MOORE :Guitar / Lead vocals

Neil Carter:Keyboads / backing vocals

Bob Daisley : Bass

Cozy Powell : Drums

Ozzy Osbourne : Lead Vocal

Thanks to

Andy Richards:Keyboards/Fairlight Programming

Simon Phillips : Drums

Charlie Morgan : Drums

Don Airey : Keyboards

そしてゲイリー・ムーアのご冥福をお祈り致します。

GARY MOORE / After The War を語る。

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お越し頂き、ありがとうございました。また お逢い致しましょう。

トリスタン

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