第226話 アースシェイカー /FUGITIVE(逃亡者)を語る

アースシェイカー/フュージティヴ(逃亡者)1984年 発表。

衝撃のデビューを果たし、日本中に旋風を巻き起こしたアースシェイカー!しかし彼らの進撃はこれからだ!

アースシェイカーの登場は衝撃的だった!ラウドネスに続く日本のへヴィ・メタル・バンドとして注目を浴びた!

そう、第2のへヴィ・メタル・バンドとして登場し、それは確かにその魅力を放出していた。

だがしかし、同時にそれだけでは無い何かも感じさせていた。それがこのアルバムで明らかになりつつあった。

歌謡曲にも通ずる親しみ易いメロディー、キャッチーな曲、カッコいい日本語の歌詞、全ての音楽ファンにアピールする要素を滲ませていた。

そう、彼らの目指した先はメタルのそれとは少し違っていたのだ。

何と面白い運命の采配であろうか。

日本のトップ2が(VOW WOWは水面下に潜む)それぞれキャラクターを被らせず、その個性を輝かせていたのです。

高崎氏と石原氏のギターは好対照の味わいを持ち、二井原氏と西田氏のヴォーカルも全く違ったベクトルに魅力を放っていた!

日本のメタル・ムーブメントの教祖達の充実は、その後続達に大きな希望の光を与えていたのだった!う~む、興味深い。

このアルバムは1stに引き続き、伊藤政則氏のプロデュースでサンフランシスコでの録音。キッズ達がこぞってバンドでコピーする名曲達を生んだ!

「記憶の中」「モア」「フュージティヴ」はもう聖典であろう!これ等の曲は日本中に乱れ飛んだ!私もやりまくった!

アースシェイカーの影響力ははかり知れなかった!この時代を生きた者達の青春そのものであった!

今になってもこれ等の曲を聴けば、あの熱い血がたぎるだろう!人によってはナイフを握りしめるかも知れない。

記憶の中の俺たちに戻れそうな気がする。

〈FUGITIVE〉

side A

1)記憶の中

作詞/西田昌史 作曲/石原慎一郎

Bのコードを4分音符で刻む音が鳴る!単純ながら効果的なリフ!そしてへヴィーなドラムがそれを盛り上げる!

この冴え渡るアイデアを聴けば彼らがいかに勢いに乗っていたかが分かる!

~誰もが見る~

そしてマーシーが歌う親しみ易いメロディー、それは短く、あっと言う間にサビに突入する。

~戻れない~

サビにはハーモニーが添えられ見事にキャッチー!日本語でしか味わえないロックの魅力!ここにアースシェイカーの今後を示す形が出来上がったと言えるでしょう!

2コーラス終わるとイントロのリフに合わせ、アーアーのコーラスが登場、サビではないが真打ちのような聞かせ方で、非常に計算されたアレンジである。

スローテンポになりギター・ソロが登場!シャラの深い表現力によって初めて活きて来るフレーズのひとつひとつ。ただ譜面通りに弾いただけではこうも素晴らしくは聞こえない。

高崎氏のギターよりは簡単だと思われているだろう。しかし、そこでは無いのです、石原氏のギターの魅力は。

そしてサビが2回繰り返される。繋ぎのフレーズもさりげなく凝っていて抜かり無い!

~二度と~

印象的な言葉が繰り返され、へヴィーなドラムは撃ち鳴らされ、曲は幕を閉じる!

この短い曲の中に全てが詰まっている!

何という名曲!

2)Young Girls

メジャーコードでありながらへヴィーでダークな雰囲気のリフが轟く!こういうダイナミックなアレンジはライブで聴くとカッコいいでしょう!アップテンポ。

歌に入るとマイナーキーで激しく攻める!1stに通ずるイメージだ。

サビではハーモニーも加わるがキャッチーにしようという意図は見えない。あくまでハード・ロックのダイナミズムを優先している。

ギター・ソロも勢いとハーモニーで押しきる!このバランス感覚はさすがです。

他が名曲過ぎて見過ごされそうですが、非常にクオリティー高いです。

3)Shiny Day

一弦の開放を上手く利用したアコースティックギターのメジャーコードの流れに導かれ、マーシーは歌う。

日曜日の昼下がりのような雰囲気を漂わせ、何とも言えない味わいを出している。いや~マーシーは本当にいいモノを持っていますね。

バンドが加わり力強く進む。明るいエネルギーに満ちていますが、アメリカの能天気さはなく湿り気も感じます。その辺りはUFOに近いかも。

ギター・ソロはワイルドにカッコよく、イキイキとして人間の熱い血潮を感じるプレイです。そうでなくてはいけない。

「Shiny Day」という英語の響きと、「奪い取れ」という日本語の組み合わせが絶妙で、聴き手を引き付ける技に感銘しますね!

これも外せない名曲です!

4)Love Destiny

作詞、作曲/西田昌史

いきなりギター奏法の解説で恐縮ですが、1弦開放と2弦5フレットのE音を上手く利用したDmキーのアルペジオが暗く悲しく幻想的に響き渡る。シャラ独特のセンスが光ります。

マーシーの素晴らしい歌声が深いリバーブの中、響き渡る。普通、上手い人の歌にはあまりリバーブは掛けないが、これは何か意図があるのでしょう。

マーシーの特徴はその大きな口を開けての明瞭な発音です。しかし「君の小さな」の「な」の部分。あまり口を開かず「の」に近い発音で、頭から鼻腔にかけて共鳴させて発声しています。

マーシーは時々これをやります。皆さんも聞き覚えがあると思います。これがまた独特の味わいがあっていいんですよね!

バンドが力強く入って劇的な雰囲気を醸し出す!まさに「Destiny」! 美しく悲劇的なメロディーは心を撃ちます!

そして歌詞の内容は抽象的なんですが、言葉の響きのひとつひとつが感動的です。

~歩き続けた戦士~

2コーラスの後はギター・ソロに行かず、アルペジオとキーボードのみです。何らかの情景描写でしょう。とても意味深な時間と空間が広がります。

再びマーシーの歌声。静寂の中、深いリバーブを伴い響き渡る。ここが一番の聴かせ所でしょうか。何とも深遠な世界が広がります。

そしてここまで押さえていたモノが一気に爆発するようにシャラのギターが炸裂する!バンドも最高潮に!何というドラマ!彼らの描いた物語は今、ここにクライマックスを迎える!

最後のサビを終え、また悲しき静寂が辺りを支配する。最後のアルペジオはイントロとはまた違ったコード進行になっていて興味深い。

Love Destiny

何という名曲。

アースシェイカーはもはやこの境地に到達していた。

side B

5)モア

作詞/西田昌史 作曲/石原慎一郎

Emから半音ずつルート音が下降するコード進行。それがこの曲を象徴する音楽的テーマとなっている。

そのテーマを基にしたクラシカルなメロディーをギターの中高域、ミュートでプレイ。徐々にフェードインして来る。(うっすらとキーボードも聞こえる)

そう、何かが始まろうとしている。

ただならぬ雰囲気だ。

ミュートは解かれ、ギターは力強く鳴り、そして一斉にバンドも登場する!

ギターはオクターブ下の低音域に移り、重厚さも加わる!

この劇的なアレンジ!シンプルなハード・ロックをここまで華麗に劇的に演出してしまうとは!ただ事では無い!

ドラムのフィルインに続き、メインリフが登場する!短3度の音を活かしたリフは(マイケル・シェンカーやヨーロッパがよく使う)このドラマチックな曲を感動的に盛り上げる!劇的なブレイク、そして16ビートで疾走!何というカッコ良さ!(イントロだけでどんだけ語る?!)

~人を憎む~

マーシーは歌う!この悲しき若者の孤独の叫びを!ロックという音楽にその思いを込め、宿命的な時間を刻む!

曲はあのテーマを基にしたメロディーとなり、劇的に突き進む!

~ナイフを握りしめた~

日本語ならではのリアルな描写である!あの日々が鮮明にオーバーラップする!マーシーの歌唱は本当に見事!

~もっと!~

「モア」という曲名を象徴するサビ!何と自虐的な歌詞だろうか!とことんまで自らを追い込む!そしてここもあのテーマを基にしたメロディーとなっている!何という大胆な作曲だろうか!一本調子になる危険と背中合わせである!

間奏

ギターによるテーマ。そしてドラムの変則的リズムが印象的である。ここにはどのようなドラマが内包されているのだろうか。

そして疾走してシャラのギター・ソロ!この物語の主人公の思い、姿、生き様を見事に表現した渾身のプレイである!何という生々しさ!フレーズのひとつひとつから血の出るような気迫が滲み出ている!

楽譜通りに弾くのは簡単でも、この表現力、気迫は簡単にマネ出来るモノではない。

最後はサビが重ねて繰り返される!この繰り返しの中に主人公の生き様が現れている!

~もっと鮮やかに!~

この鮮烈な世界観!日本語のロックはここでひとつのアイデンティティーを築き上げたと言えるでしょう!

洋楽ロックは最高だが、日本のロックも全く同様に素晴らしい事を証明した、記念碑のような名曲です!

6)22時

バラード調にしっとりと始まる。全体的にはスロー系でリラックスして聴ける。

次作「Midnight Flight」に通ずるマーシーの素晴らしい歌唱が印象的です!

今聴いても、とても良い曲です。

「Love Destiny」「モア」で語り過ぎたのでここはさらっといきましょう。(この曲のファンの方すいません)

7)Drive Me Crazy

ノリノリのロックンロール!

日本語でどこまでやれるか?!

飽くなき挑戦は続く!

サビは英語だけど。

次曲で存分に語ります。(この2曲はリラックスタイム、いや手抜き)

8)Fugitive

作詞、作曲/西田昌史

唐突にギター・リフが鳴り響く!

何と、この曲も「モア」と同じくEmのルート音が下降して行くコード進行がギター・リフに使われている!

同じテーマを使って全く別のアイデアのリフを作るとは凄いセンスである!

~忘れ去った時~

マーシーの宿命的な歌声が劇的に登場する!これもカッコいいですね!「モア」と並んで強烈なオリジナリティを放っています!バンドのブレイクを効果的に使ったアレンジが素晴らしい!

~Oh 冷たく~

ミドルテンポのバラード調で、Gメジャーのコードが使われているが、この哀愁はハンパでは無い!そしてB7の響きが悲しさにトドメを刺す!そして歌詞から、いや曲全体から伝わる寒々しい雰囲気が何とも言えない!

~怯えた Fugitive !~

この決定的なサビのフレーズ!裏メロディーのようなギターのバッキングと合わせて、途轍もなく効果的で完璧なサビである!やってくれる!

2コーラス終わると

~一言の~

カイのムーディーなベースがリードする中、静かに、内省的に、寂しげに語る…。

~今と同じように~

そしてメイン・リフ…。

~忘れ去った時~

1コーラス目と同じ歌が繰り返される。忘れ去った記憶が甦るように。

このドラマ性、アースシェイカーの持つ特質を表していて本当に見事です。名曲揃いですが、特別な一曲であるのは間違いないです!

終章

メイン・リフに続いてシャラのギター・ソロ。真打ち登場と言わんばかりにむせび泣き、吼える!

いや、若い頃この曲のコピーをバンドでやりましたが、シャラのこの入魂のソロの素晴らしさを理解しきれておらず、自分なりのオリジナルのソロを弾きました。

今なら一音一音大切に完璧にコピーして弾くでしょう。シャラの泣きのニュアンスを如何に再現出来るか?!に命をかけるでしょう!

ソロが進むにつれ、バンドも激しく盛り上がり、クライマックスへ!高音域のあの速い繰り返しフレーズが叫びを上げる!

最後はリフが力強く刻まれ、爆発的なエネルギーが炸裂する!

C~D~Emのコードが存分に伸ばされ、劇的なラストを演出する!

ハード・ロックの歴史に残る名曲がここに!

デビュー・アルバムも素晴らしい作品でしたが、この「Fugitive」の深みは本当に凄い!ただならぬ成長が伺えます!

そして次の「Midnight Flight」で更なる飛翔を遂げる!

アースシェイカーの輝ける時代、今ここに!

〈EARTHSHAKER〉

西田昌史:Vocals

石原慎一郎:Guitars

甲斐孝之:Bass

工藤義弘:Drums

〈guest〉

Mitchell Froom:Keyboards

〈Produced by Masa Itoh〉

EARTHSHAKER / Fugitiveを語る。

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感想(0件)

お越し頂き、ありがとうございました。また お逢い致しましょう。

トリスタン

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“第226話 アースシェイカー /FUGITIVE(逃亡者)を語る” への 2 件のフィードバック

  1. dora より:

    こんにちは、doraと申します。
    本日、アースシェイカー関連記事を検索していて、偶然こちらのブログにたどり着き、読ませていただきました。
    なんと読み応えのある記事でしょう!
    感銘を受けました。

    私もトリスタン様と同じように、アースシェイカーのアルバム曲解説記事を拙いブログで書いていますが、とても及びません(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
    外タレも含めて、よくこれだけの記事を書いておられることが、すごいです。
    少しずつ読ませていただきます。

    1. トリスタン より:

      dora様こんにちは。
      私のブログをお読み下さり、またそのように評価して頂き、ありがとうございます。
      dora様のブログも拝見しました。
      気心の知れた友達どうしの会話のようでとても読んでいて楽しいです。
      私もこのようなノリで書きたいのですが、人間性が出てしまいます。
      今回このブログで何を書いたか全く覚えていないので読み返したのですが、やかましいヤツですね。
      音楽の解説に没頭してしまってます。
      他の記事も読んで頂けるのでしたら嬉しいです。
      ありがとうございます。

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